アフタヌーンの秘薬
川田さんと松山様の視線を痛いほど感じる。こんなに長い2分30秒を経験したことはない。
茶碗に最後の1滴まで玉露を注ぎきると茶托に載せて松山様の座るテーブルに運んだ。
「いただきます」
松山様の様子を気にしないように他の仕事をしていたけれど、内心はドキドキして体のだるさを強く感じた。
「まだ玉露のうま味が引き出されていないわ」
やはり、と私は落ち込んだ。
「申し訳ございません……」
「いいえ、だめではないのよ」
そう言う松山様は立ち上がり私のところまで空の茶碗を持ってきてくれた。
「また来ますね」
封を開けてしまった玉露と龍清軒を3袋買って頂いて松山様は帰っていった。
「全然だめでした……」
川田さんに落ち込んだ声を向けた。
きっとお湯の温度がまだ高かったのだ。玉露の甘みとうま味は高い温度では浸出されない。
けれど川田さんは私とは反対に笑顔だ。
「三宅さん、松山様今日は厳しい言葉じゃなかったよ。あんな風に言うときは褒めてるのと同じよ」
「そうでしょうか……」
「自信持って」
川田さんはそう言うけれど私は褒められたようには感じない。
急須に残った玉露の二煎目を飲んだけれど、川田さんに淹れてもらった玉露とは程遠い味がした。
好きだと思えるようになったお茶は今の私ではまだ中途半端な知識と技術。カフェでの仕事も動きが鈍り、後輩にフォローされることが増えた。
龍峯が休みの日はカフェに出勤し、カフェが休みの日は龍峯に朝から夕方まで勤務する。
疲れが溜まっていることは自覚していたけれど、思うように頭が働かないことがもどかしい。