アフタヌーンの秘薬
「俺はいいよ。一緒に住んでも」
「…………」
私は笑顔のまま固まった。
「この部屋は1人で住むには広すぎるし、梨香の部屋だってある」
確かにここは部屋が余っている。でもそういうことじゃない。
「さすがにそれはやりすぎ。聡次郎さんも私と住むのは嫌でしょ?」
「嫌じゃないよ」
はっきりと言い切った。真っ直ぐに私を見る目に吸い込まれそうだ。
「嘘だー。聡次郎さん私のこと嫌いなくせに」
冗談ぽく笑ってみせる。嫌じゃないなんて言われたら勘違いしてしまうから。
「嫌いなわけないだろう」
聡次郎さんの目は冗談じゃないと言っているように力強い。
「家賃もいらない。梨香がただここにいてくれればいい」
「それってどういうこと? 契約は?」
「契約は終了。ここからは俺の気持ちの問題」
「気持ち?」
「好きだよ」
その言葉に目を見開いた。
「う、嘘だ……」
「嘘じゃないよ」
聡次郎さんは即答する。
「本当はいつまでも契約で縛りつけてそばに置いておきたいほど、梨香が好きだ」
聡次郎さんのものとは思えない感情をぶつけられて、私はもう真っ直ぐ前を向けない。そんな風に思われているなんて知らなかったから。
「梨香」
優しく名を呼ばれても答えることができない。行き場をなくした視線はテーブルを彷徨う。どうしよう、どう言ったらいいの。
「契約はもう結ばない。金銭のやり取りもない。それでも俺のそばにいてほしい。梨香も俺を好きでいてほしい。契約で縛られた梨香が俺のお願いを断れないのも知ってた。契約を利用して離れたくないって思うほど俺はずっと梨香を想ってた」