アフタヌーンの秘薬

自然と涙が頬を伝う。
もう誤魔化せない。聡次郎さんの気持ちが嬉しい。

「私……聡次郎さんに嫌われてると思ってました」

「その逆。俺ずっとお前に構ってただろ」

「わかりにくい……」

「梨香が鈍感なんだよ」

ムッとする言動も期間限定の関係だから我慢できた。無理に連れ出されたり食事をしたり、契約だと言っていた本心は違ったということなのだ。
おかしいなと思うことは何度もあった。恋人のふりの強要にうんざりしたこともあった。聡次郎さんの行動の一つ一つに一喜一憂してドキドキした自分もいた。

「俺のことを本気で好きになれって言った。その返事を聞かせて。金が発生する契約じゃないと俺のそばにいてくれない?」

聡次郎さんの声は焦っている。顔は今にも泣きそうに見えるのは気のせいじゃない。

私は精一杯聡次郎さんに笑いかけた。

「私たちは変な出会い方でした。しかも聡次郎さん強引だしワガママだし、私の気持ちなんて全然お構いなしだし」

聡次郎さんはますます不安な顔になっている。普段見れないそんな顔が可愛いと思ってしまうのは、聡次郎さんに気持ちがいっている証拠だ。

「でも今はそばにいても緊張しないし怖くないよ」

「梨香……それって……」

「強引なのもなし。ワガママなのもなし。何事もちゃんと相談してくれますか?」

「うん。ちゃんとする。大事にする」

「お願いしますね」

そう言った瞬間、聡次郎さんの腕が私を強く抱きしめた。

「好きだよ梨香」

耳元で囁く聡次郎さんの声が私への溢れる想いを伝える。

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