アフタヌーンの秘薬

そういえば少し前に相沢さんがお客様とお店で揉めたとき月島さんも店内にいたのだと思い出した。

「彼女のお名前は制服についていた名札で確認済みでした。我々は気の強い女性にお願いしたかったんです。龍峯の親族を言い負かせるほどの」

「なるほど……」

それなら相沢さんが適任かもしれない。なんていったって過去にもお客様に強気で対応して態度が悪いと本社にご意見を送られたことがあるのだから。

「それに長期的な契約を結びたいので、できれば休日が取りやすい学生にお願いしたかったのです。相沢さんは恐らくまだ大学生ですよね?」

「ええ。でも相沢はもうすぐ退職します。春から社会人として会社に勤めると聞いています」

「はぁ……まじかよ」

龍峯さんは溜め息をついた。私が悪いわけではないのに責められているようでこっちが溜め息をつき返したくなる。

「婚約者のふりをするだけなのに条件の合う方はそんなにいないんですか?」

「意外といなかったのです……」

そう言いながら月島さんは下を向いた。

友人知人に頼めば簡単なのに、婚約者のふりができる人が見つからないなんて龍峯さんの性格に問題があるのではと思えてきた。演技とはいえこの人と恋人になるなんて私なら耐えられない。
考え事をしているのか下を向いていた龍峯さんが何かを思いついたように顔を上げた。

「じゃあ婚約者のふりをあんたにお願いしたい」

「え?」

私だけではなく月島さんも間抜けな声を出した。

「聡次郎、何を言っているんだ」

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