アフタヌーンの秘薬
「確かに気が強い女性の方が有利かもしれない。でもこの人が役不足なんてことは決してない。学生を連れて行くよりも年齢は不自然じゃない」
「ちょっと待ってください! 私には無理です!」
月島さんはともかく、龍峯さんとは今後一切接点を持ちたくない。
「今あのカフェは正社員?」
「違います……」
「ならこの話は悪くないと思う。もし俺の偽婚約者になってもらえたら報酬は払う。だから頼む」
「………」
突然の話に返事ができずにいた。『報酬』という言葉に惹かれてしまったことは隠せない。
「ほら、明人からもお願いしろ」
「めちゃくちゃだ。聡次郎が言い出した計画は何もかも現実的じゃない」
龍峯さんが隣に座る月島さんの腕を肘で押しても月島さんは呆れた顔を崩さない。
「事情を話してしまったらもう引けないだろ」
龍峯さんの言葉に月島さんも諦めたようだ。
「数回龍峯の家族に会ってくれるだけで構わないのでお願いできませんか?」
龍峯さんと月島さんは揃って私に頭を下げた。
「でも……」
それでも私は「はい」と言えなかった。突然出会った人たちに婚約者のふりをしてくれなんて突飛な話をされて受け入れろという方が難しい。