アフタヌーンの秘薬

「望むような額をお支払いします。数回会って別れたことにして、それっきりご迷惑をお掛けすることはありません」

「別れていいんですか? 結婚相手として紹介するんですよね?」

「俺に別の人との縁談がきています。それを断る口実として偽の婚約者が必要なんです」

「そうですか……」

それならば長期的な契約といっても、ものすごく長い時間はかからないかもしれない。それに『望むような額』と言われ思わず龍峯さんの顔を見てしまった。正直今は生活が苦しい。1人暮らしで長時間のシフトにも入れず、もう1つ仕事を探そうとしていたほどに。

「……わかりました。お引き受けします」

「ありがとうございます」

龍峯さんも月島さんも安心したような顔を見せた。

悪い話ではない。龍峯さんも名刺を見る限り怪しい人ではなさそうだし、月島さんは顔を知っているカフェのお客様だ。
大きなトラブルは考えにくいよね。
そう自分を納得させた。

龍峯さんと月島さんと連絡先を交換した。思わぬ形で月島さんの名前と連絡先を知れたことに口元が緩むのを抑えるのに苦労した。相沢さんに自慢してしまいそうだ。

「そうそう、この契約のことは他言無用でお願いします」

「え?」

「お友達にも職場の方にも、SNSにも一切情報を出さないでくださいね」

月島さんの意外なお願いに「どうしてですか?」と困惑して聞いた。

< 14 / 216 >

この作品をシェア

pagetop