アフタヌーンの秘薬

「強引なんだか優しいんだかわからない。いつも私のお願いなんて聞いてくれないし」

「お茶淹れてやっただろ」

一々言い返してくるから呆れて笑う。暗くて見えないけれど、きっと今聡次郎さんも笑っている。

「早く風邪治せよ」

「はい。おやすみなさい」

「おやすみ」

握った手は離さないで目を閉じた。
このまま風邪が治らないのもいいかもなんて思いながら。










「梨香、梨香」

私の名を呼ぶ声に目を開けると、視界に聡次郎さんの顔が入る。

「おはよう。起きれるか?」

「おはようございます……もう朝ですか?」

「ああ。俺はもう出勤するから今日は寝てろ」

聡次郎さんはスーツを着ている。リビングのソファーに置かれたカバンが見えた。

「でも、休めないよ……」

昨日早退して今日も休むなんて申し訳なく感じてしまう。

「今日は龍峯か? カフェか?」

「龍峯……」

「なら休め。店には俺が言っとくから」

体を起こすと、まだ少しだるさを感じるけれど熱は下がったようだ。

「大丈夫。行けるよ」

「だめだ、休め」

聡次郎さんに厳しく言われて口を噤んだ。確かにまだ万全な体調ではない。今無理をするとぶり返してしまうかもしれない。

「わかった……休む……」

口を尖らせてそう言うと聡次郎さんは笑ってベッドに腰掛け、昨日と同じように私の頭を撫でた。

「少しは良くなった?」

額に手を当てた聡次郎さんは私の顔を覗き込む。

「ちゃんと寝れたからだいぶ良いよ」

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