アフタヌーンの秘薬
「それはよかった。俺は寝れなかったけど」
「どうして?」
「梨香が横で寝てるのに意識しないわけないだろ」
真顔でそう言われて返す言葉がない。
「手を握る以上のことをしないように必死だったよ」
「あの……ごめんなさい……」
やっぱり私がソファーで寝ればよかった。聡次郎さんに手を握られて私は安心して眠れたのに、聡次郎さんはそうじゃなかったのだ。
「いいよ。俺が自分で選んでそうしたんだから」
聡次郎さんの手が私の頬に触れた。
「でも、次寝室に来たら寝かさないから」
顔が赤くなるのを感じた。私を見つめる聡次郎さんはもう『偽』の恋人じゃない。
「今夜も泊まってく?」
いたずらっぽく笑うから慌てて首を左右に振った。
「帰ります。着替えたいし」
「送っていこうか?」
「大丈夫。もう自分で帰れるから。服は洗って返すね」
「気をつけて帰れよ。母さんにだけは見つからないようにな。うるさく言われるだろうから」
そうだ、昨日聡次郎さんとは別れると言ったのに、その日に泊まったなんて奥様に知られたら大変なことになる。
「他の社員にも見られないように非常階段で下りる……」
「梨香、もう社員にも家族にも全部バレてもいいんだ」
「え?」
「俺たちはもう本物の恋人だろ」
頬に触れていた手が離れ今度は膝に置いた私の手を握った。
「梨香のことが好きすぎて嫉妬もしちゃうけど、大事にするって言った言葉は嘘じゃない。これからずっと証明し続ける」