アフタヌーンの秘薬
「彼女に三宅さんからお弁当をもらったことを知られて……」
「怒られましたか?」
「いえ、プロポーズされました」
「はい?」
「彼女から逆プロポーズされました。お弁当なら毎日私が作るからと」
初めて見る月島さんの照れた笑顔に私までつられてしまう。
「おめでとうございます!」
「ありがとうございます。三宅さんのお陰です」
月島さんが結婚する。なんておめでたいのだろう。しかも私のお弁当がきっかけで。
「聡次郎さんはそのことを?」
「はい、知っています。龍峯家の皆様には報告しています。その内社員にも知らせようかと。聡次郎には俺に感謝しろと言われました」
聡次郎さんが言いそうなことだ。まあ聡次郎さんがお弁当を食べなかったお陰でもあるのだけれど。
「お弁当おいしかったです。聡次郎は三宅さんの料理を楽しみにしていますよ」
「そうでしょうか……」
「料理もですが、三宅さんの誠実なところに惹かれたのだと思います」
月島さんに誠実なんて言われて増々照れてしまう。以前なら月島さんに褒められたら舞い上がっていただろう。でも今は職場の上司として接しているから下心なく受け入れられる。月島さんに近づきたいと思っていたころが遠い昔のようだ。
「これからも聡次郎をよろしくお願い致します」
「いえ、こちらこそ」
月島さんはエレベーターに乗り、私は店舗事務所へ向かった。