アフタヌーンの秘薬

事務所のドアを開けると花山さんが既に出勤していた。「おはようございます」より先に花山さんは「退社日のことなんだけど」と切り出してきた。

「本当は来月いっぱいでと言いたいのだけど、夏休みはパートさんが長い期間休むこともあるから秋まではいてほしいそうです」

花山さんは不機嫌そうにそう言った。内心今すぐに辞めてほしいと思っているだろう。

「そうですか……」

意外と長く勤めることになりそうで良いような悪いような複雑な気持ちだ。
夏休みはカフェの方は学生がシフトに入るから、私は龍峯に集中して出勤しても問題なさそうだ。

「残念だわ、迷惑かけられるのも来月で最後だと思ったのに」

花山さんは心底残念そうに言った。店長のくせに接客しないで事務所に引っ込んで文句だけ言う人が何を、と思ったけれど今の私はどんな言葉も気にしないだけの精神的余裕があった。

「残りの期間もご指導よろしくお願い致します」

心にもない言葉を言うと店に入った。










配送部に頼まれ龍峯の近くの寿司店にお茶のお届けをした帰りに、駐車場で営業部の男性社員と会った。

「お疲れ様です」

「三宅さんお疲れ」

この社員は以前に会議室で私のお弁当を褒めてくれた人だ。

「外出?」

「はい。配送部の方に頼まれてお寿司屋さんに粉茶を届けに行ってきました」

「ほんと、社員みたいによく動くね」

確かに私は社内を動き回り、頼まれれば古明橋内をお使いに出ていた。今では先輩パートさんよりも社員さんと仲良くなっている。

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