アフタヌーンの秘薬
「いっそ社員になっちゃえばいいのに」
「あはは……」
正社員になれたらどんなにいいだろう。今よりも責任は増えるはずだけれど、私は正社員にずっと憧れていた。
「じゃあ、頑張って」
「はい、ありがとうございます。お疲れ様です」
男性社員は車に乗った。ビルの中に入ろうとしてふと上を見上げると、4階の窓から聡次郎さんが私を見下ろしていた。手を振ろうとしたけれど、聡次郎さんはすぐに目を逸らして奥へと行ってしまい、私からは見えなくなってしまった。その行動に違和感を覚えたけれど、気にせずに私もビルの中へ入った。
お中元の去年の予約リストをもらいにオフィスに上がった。
通常店舗のスタッフはオフィスに行くことは滅多にない。けれど私は他のパートさんよりも社内を移動する雑務を引き受けているためオフィスに行くのも抵抗がない。
「あ、三宅さんお疲れ様です」
本社営業部の女の子が声をかけてくれた。この女の子は少しだけ年上で、長いことフリーターをしてきた私が憧れるオフィス街企業で働く正社員だ。
「あの、三宅さんにちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「はい」
女の子のデスクに近寄った。
「三宅さんカフェでも働いてるんだよね? 今カフェってどんな商品が売れる?」
「え……ドリンクですか?」
「うーん……ドリンクもごはんも」
答え難い質問をぶつけられた。商品は季節や材料、土地柄によっても売れ方は全く違い、大きな括りで何が売れるのかというのは私でも答えられない。