アフタヌーンの秘薬

「私のお店でのお客さんは会社員が多いので、やはりシンプルにブレンドコーヒーが売れますね。午後は地元の方もいらっしゃるのでケーキセットでくつろぐ方が多いです」

「なるほど……やっぱ定番よね……」

女の子は私の中途半端な答えに考え込んでしまった。

「何かあるんですか?」

「うーん、実は今度龍峯で……」

「三宅さん、こんなところでなにサボってるの?」

突然怒りを込めた言葉をかけられ振り向くと花山さんが立っていた。

「あ、えっと……お中元の去年のデータをもらいに……」

「ならここで無駄話してないで早くお店に戻って頂けるかしら?」

「はい……」

私は壁沿いの棚から去年のファイルの束を取り出した。私と話していた女の子は不機嫌そうな顔で花山さんを見ていたけれど、「あなたもバイトに意見を聞くんじゃなくて自分で調べなさい」と怒られ更に眉間にしわが寄っている。

オフィスを出て行こうとする私を花山さんが呼び止めた。

「三宅さん、もうすぐ辞める身なんだから、あんまり龍峯の内情を知るのは遠慮して頂きたいわ」

「え? 三宅さん辞めるの?」

女の子だけじゃなく周りの社員も私を見た。

「えっと、あの……」

「体調が優れないので秋までで契約を終了するの」

何と答えたものか迷う私を差し置いて、花山さんはわざとらしい笑顔でフロア中に聞こえる大きい声を出した。

「もしかして龍峯の空気が合わないのかな?」

この嫌みに一気に怒りが湧きあがった。

< 152 / 216 >

この作品をシェア

pagetop