アフタヌーンの秘薬
私はビルを見上げながら車を降りた。18階建てで、駐車場も広ければフロアの広さもかなりあるように見える。屋上には看板が設置されているがはっきり見ることができない。
ビルの裏であるこの駐車場の入り口にも看板が設置され、緑のロゴマークと共に『株式会社龍峯茶園』と書かれていた。
「たつみねちゃえん……」
聞き覚えのある社名を呟いた私に「置いてくよ」と聡次郎さんのぶっきらぼうな声が向けられ慌ててついていく。
ビルの中に入るとすぐ右には荷物を搬入すると思われるエレベーターがあった。エレベーターの横には階段があり、廊下の先には扉が2つあった。更に奥にはビルの正面玄関がある。
エレベーターのボタンを押した聡次郎さんは当たり前のように開いたドアからエレベーターに乗り、迷いもなく16階のボタンを押した。
「あの、ここは本当に自宅なんですか?」
「そうだよ。ここが家」
「でもここは会社ですよね? 住めるようには見えないのですが……」
「15階までが会社で16階から上が家族の家」
「え? でも聡次郎さんは飲料メーカーにお勤めなんじゃ?」
「そう。俺はただの飲料メーカーの会社員。でもここは俺の家の会社」
「………」
「この会社は俺の家族がやってる会社なんだよ。俺自身はまったく別の会社に勤めてる。でも家はここ。この本社ビルに住んでるの。意味わかる?」
驚きのあまり言葉が出ない。
「言わなかったっけ?」
「聞いてません……」
ポカンと口を開ける私に聡次郎さんは呆れた顔をした。
「大丈夫か?」