アフタヌーンの秘薬
「梨香には言う必要ないと思ってたんだけど、この間直接愛華さんに付き合ってる人がいるって言ったんだ」
「そうなの?」
「いつまでも母さんに付き合わせたら悪いだろ。だから愛華さんと結婚するつもりはありませんってはっきり言った」
「それっていつぐらい?」
「何日か前」
もしかして愛華さんが化粧室に行くと言って聡次郎さんに話しかけに行ったときだろうか。だからあの後愛華さんは暗い顔をしていたのかもしれない。
「もう会うこともないし俺の顔なんて見たくないだろうと思ってたけど、まさか来るとは驚いた」
「聡次郎さん、もしかして愛華さんの気持ちを知らなかったの?」
「ん? 親同士に無理矢理結婚させられそうになって、俺と同じで怒ってる?」
本気で分かっていなそうな言葉に呆れた。今まで聡次郎さんは愛華さんの何を見ていたのだろう。ここに通うことの全部が強制だったわけじゃない。
「愛華さんは私と同じなんだよ」
この言葉で聡次郎さんも理解したようだ。一瞬目を見開くと「そうか」と私の体を引き寄せた。
私はそのまま聡次郎さんにもたれかかってキスをした。
「梨香?」
目を見開いた聡次郎さんに再びキスをする。
「また不安になったのか?」
「そうじゃないけど……」
私の今の幸せは愛華さんを傷つけた上で成り立っている。
「私……傷つけちゃったから……」
「それは俺も同じだよ」
聡次郎さんの両手が私の頬を包む。
「俺は愛華さんを意識したことは一度もない。最初から梨香だけだ」