アフタヌーンの秘薬
「うん……」
離れたくない。ずっとそばに居たい。
愛華さんを傷つけてごめんなさい。聡次郎さんのそばにいてごめんなさい。
◇◇◇◇◇
近頃の聡次郎さんは忙しいのか家に帰る時間も遅くなり、疲れが顔に出るようになった。時間があると寝てしまうし、話しかけてもボーとしている。
「大丈夫ですか?」
「……ああ、うん。平気」
「お茶淹れましょうか?」
「うん」
茶の葉を急須に入れながら聡次郎さんを盗み見ると、ソファーに横になりボーっと天井を見つめている。
今聡次郎さんがどんな仕事をしているのかはバイトの私にはわからない。聞いても「秘密」と言われてはそれ以上聞けない。疲れが溜まっているのはもちろんだけど、何かを悩んでいるようではあった。
愛華さんのこと、言わなきゃよかったかな……。
私と同じで愛華さんも聡次郎さんが好きなのだと言ったから悩んでしまったのではと不安になる。
聡次郎さんはずっと愛華さんも嫌々婚約させられたと思っていた。でもそうじゃないと知ったら後悔しているんじゃないかと。
カフェに出勤し、お昼過ぎまでの短い時間勤務した。風邪をひいてからカフェでの勤務時間を減らしたけれど、龍峯での業務も残すところあと1日になってまたカフェに専念できる。
夏休みが終わると子供がいる主婦パートさんが勤務する時間が増えてきて、私がいなくても龍峯本店は回るのだ。
夕方までには聡次郎さんの部屋に帰ると連絡してはいた。その連絡をしたところで聡次郎さんがいつ帰ってくるのかはわからないけれど。最近お昼は出先で食べることもある聡次郎さんは、今日もどこかで済ませてくれたと思っていた。