アフタヌーンの秘薬
古明橋の駅に着き龍峯のビルまで歩いていた。ランチタイムを過ぎたけれど人通りは多くてどこの飲食店も混んでいる。
自分の昼食はカフェの賄いで済ませた。けれど古明橋のカフェやレストランはオシャレなのに価格も安く、外に置かれたメニューの写真を見るだけでお腹がいっぱいなはずなのにまた食べたいと思えた。
イタリア料理店の扉の前に置かれた黒板のメニューを見ていたとき、ふと店内に視線がいった。
ガラス窓の奥に見えた店内のテーブルに座る1組の男女を見つけてしまった。それは遠くからでもはっきりと誰なのかわかった。モデルのように整った顔で微笑む愛華さんと、その向かいには聡次郎さんが座っていた。
その姿に胸を締め付けられるほどの衝撃を受けた。聡次郎さんと愛華さんが食事をしている。普段のランチタイムは私と居る特別な時間のはずだ。その時間を今愛華さんと共にいる。
まるで恋人同士に見えるほど自然で、絵に描いたようにお似合いの2人だった。聡次郎さんの横に私がいるよりもずっと。
私たちが外食したのは叔母さんのお蕎麦屋さんに行った時だけだ。デートをしたことなんて付き合う前だけ。なのに2人は楽しそうに食事をしていた。
愛華さんが笑うたび聡次郎さんも笑う。愛華さんが話すと聡次郎さんも相槌を打つ。
忙しい合間を縫って愛華さんと会っている。やはり聡次郎さんは愛華さんに気持ちが動いてしまったのだ。どうしようもない寂しさで気持ちが溢れる。