アフタヌーンの秘薬
肯定したものか迷った。確かに出ていった。でもそれをはっきりと告げると本当に終わってしまうのだ。自分から出て行ったのに、終わらせたくないと願ってしまう。情けないことに、聡次郎さんが来てくれて嬉しい。
「もう戻らない気?」
「…………」
立ち尽くす私の後ろを車が通り抜けていった。
「取り敢えず乗ってよ。そこに立ってると危ない」
迷ったけれど確かに危ないので助手席に乗った。
「部屋の荷物が減ってるのに気づかないと思った?」
「…………」
「連絡もない。電話にも出ないじゃ心配するだろ」
「聡次郎さんこそ、私を心配させるようなことしてるじゃない……」
私は絞り出すように思いをぶつけた。聡次郎さんが愛華さんと食事しているから、私は不安になってしまったのだ。
「昨日、愛華さんと食事してるの見てたんだから」
「あれは……」
「不安なの。愛華さんの方が正式な婚約者だから……」
「梨香」
「2人が食事をしてるだけでも私……」
「もうそれ以上何も言うな」
突然聡次郎さんが身を乗り出し、顔を近づけ私の唇を塞いだ。私を助手席のシートに押し付け動きを封じ、黙れとでも言うように激しく唇を貪る。
「そう、じろうさん!」
ぎゅうぎゅうと肩を押し退けるとやっと唇が解放された。聡次郎さんは怒っているのか悲しんでいるのか複雑な顔をして深い溜め息をついた。
「あれは愛華さんときちんと婚約を解消するための話し合いの食事だよ」
「え? でも……楽しそうだったよ?」