アフタヌーンの秘薬
「もう恋人もやめよう。家族になるんだ」
「聡次郎さん、それって……」
「結婚しよう梨香」
思いもよらぬ言葉に胸が熱くなる。
「結婚……」
「そう。俺と梨香、夫婦になるの」
聡次郎さんはもう見慣れたイタズラっぽい笑顔で私を見返す。
「嫌か?」
私は思いっきり頭を左右に振った。
「嫌じゃない! 私も聡次郎さんと結婚したい!」
車外にも聞こえそうなほど大きな声に聡次郎さんは笑った。
「でも皆さん許してくれるかな?」
「俺自身が選ぶ人生だ。俺の好きなようにさせるさ。少なくとも兄貴は喜んでくれる。俺が龍峯を離れるのは困るだろうけど」
龍峯を離れる。その言葉に私は心配になった。
「聡次郎さんは龍峯を離れたいの?」
「梨香がそう望むのなら。2人一緒なら俺も龍峯を離れて他の会社に転職する。あの家を出てもいい。別の部屋を借りて2人で暮らそう」
驚いて言葉が出ない。家を出てもいいと、私を選んでくれると改めて言ってもらえると嬉しい。けれど間違っていることもある。
「私は……聡次郎さんは龍峯を離れちゃだめだと思う」
「どうして?」
「だって……聡次郎さん、本当はお茶がすごく好きだよね?」
私の言葉に聡次郎さんは目を見開いた。
「お茶が嫌いだって言ってたけど毎回私にお茶を淹れさせるし、仕事だって熱を入れてる。龍峯に戻ってくるのも本当はそんなに嫌じゃなかったのかなって」
聡次郎さんはいつだってなかなか本心を見せない人だから、これも私の憶測だけど。