アフタヌーンの秘薬
「ふっ……梨香はすごいな」
すごいと言われる意味がわからなくて首を傾げた。
「結局俺の判断は間違いじゃないってことだな」
「なんのこと?」
「俺のことを1番理解してるのは梨香ってこと」
そう言われても意味がわからない。
「俺の父は子供の頃から兄貴を後継者として教育してきた。お茶の勉強をさせて茶農家に修行にも行かせた。でも俺には一切何も教えてくれなかった」
聡次郎さんの顔は寂しそうだ。
「本当はその頃からお茶が好きだったの?」
「ああ。兄貴が羨ましかったな。俺が龍峯を継ぎたいと思ってたんじゃなくて、父さんや兄貴の助けになりたかった」
嫌々龍峯に戻ってきたという態度だったけれど、聡次郎さんはいつだって慶一郎さんを敬っていた。
「梨香の言うとおり、お茶は好きだよ。今更照れくさいし、散々嫌いな風を装ってたから家族は誰も知らない」
聡次郎さんは私の手を握った。
「気づいたのは梨香だけ」
「じゃあ私は聡次郎さんに好きな仕事を続けてもらいたい。龍峯から離れちゃだめ。慶一郎さんを支えてあげなきゃ」
聡次郎さんは微笑んで私の手をぎゅっと握る。
「じゃあ俺を支えるのは梨香だな」
「私でいいの?」
奥様はもちろん反対だろう。それに慶一郎さんも、会社的には聡次郎さんは愛華さんと結婚した方が助かるだろうに。
「愛華さんと結婚した方が龍峯にはいいことだな。でも愛華さんが会社のためになっても、俺の最良のパートナーにはなれない」
「私でも良いパートナーになる自信はないんだけど」