アフタヌーンの秘薬
短大生の相沢さんは就職が決まって来月にはこのカフェを辞めてしまう。店長が頼りないカフェでは相沢のように仕事のできる後輩が辞めてしまうのは公私共に寂しくもあった。
私自身はこのカフェを運営する会社に社員として入れたらいいのだけれど、店長やその上の上司との話し合いはまだできていない。
仕事が1つになってしまってからは生活に余裕がなく、そろそろ貯金を切り崩すのも厳しくなってきていた。
お店の自動ドアが開く音に顔を向け「いらっしゃいませ」と声をかけた。入店してきた長身の男性に思わず気分が高揚する。グレーのスーツに銀フレームのメガネをかけた男性が壁際の棚に並べられた惣菜パンを取るために屈んだ。
週に何度か来店するこの男性はモデルかと思うほどのイケメンで、品のある身形から想像して仕事が出来るエリートではないかと女性従業員の間で話題に出ることが多かった。
私も例に漏れずこの男性が来ると他のお客様以上に見とれてしまうのだ。
「店内でお召し上がりですか?」
カウンターにコロッケパンを載せたトレーを置いた男性に声をかけた。パンを持ち帰るときもあれば店内で食べて帰ることもあったからだ。
「店内で食べていきます。ロイヤルミルクティーのホットをお願いします」
「かしこまりました」
男性の落ち着いた心地のいい声に気をよくしてレジを操作し、横に控えた相沢さんにロイヤルミルクティーの入ったピッチャーを渡した。この人はいつもロイヤルミルクティーのホットを飲むのだ。相沢さんにオーダーを通さなくても温めることは伝わる。
「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」