アフタヌーンの秘薬
「聡次郎、三宅さんは僕たちに頼まれて龍峯にいるんだよ?」
月島さんがフォローしてくれたけれど聡次郎さんは私から目を逸らさない。まるで睨みつけているかのようだ。
聡次郎さんの言葉に私は何も言い返せない。その通りなのだ。簡単な仕事なんてない。新しい職場は覚えることがたくさんある。
けれど望んでその仕事に就いたかどうかで考えも大きく違うのだ。私は自分から望んで龍峯に来たわけではない。追加契約は想定外だ。
聡次郎さんは私の気持ちなんて何も汲もうとはしない。この人は自分のために私を巻き込むのだ。
「お茶の淹れ方は聞いた?」
「はい……いくつかのお茶は試飲もしましたけど……」
「じゃあ今淹れてみて」
「え?」
「今ここでお茶を淹れてみて」
そう言われても困ってしまう。ここには急須も茶碗もないのだ。
「そっちに道具は全部あるから」
聡次郎さんが顎でしゃくった先は私の後ろだ。入ってきたドアの横には二畳ほどの給湯スペースがあった。
「ここは会議室だけど社員が食堂としても使えるんだ。だから水道もポットも急須も一通り揃ってる」
覗いた給湯スペースは確かに流しがあり、小さい冷蔵庫とコンロと電子レンジもあった。
「冷蔵庫に従業員用のお茶の葉が入っています」
月島さんまで私にお茶を淹れさせようとしてくる。
「美味しくなくても知りませんよ」
ぶっきらぼうにそう言い返して、渋々電気ポットに水を入れスイッチを入れた。冷蔵庫の引き出しには確かに開封され丸めて輪ゴムで止められたお茶の袋がいくつか入っている。