アフタヌーンの秘薬

「どれをお淹れしますか?」

「龍清軒」

聡次郎さんは即答だった。

「素人でも美味しく淹れられるお茶だろ?」

バカにされているように感じたけれど、素人なのだから仕方がない。
食器棚から急須を出し、3人分の茶碗を出した。引き出しを開けるとプラスチックの茶さじが入っていたのでこれを使わせてもらう。

1人2グラムから3グラムだから茶さじ1杯分……。

頭の中で計算しながら急須にお茶の葉を入れる。
ポットでお湯が沸いたカチッという音がしたので茶碗にお湯を注ぐ。お湯が少し冷めた頃に茶碗のお湯を急須に入れた。ここからお茶が浸出するまでさらに40秒ほど待つ。

「まだ?」

聡次郎さんの急かす声が聞こえるけれど、心の中で40秒数えている私は返事をしない。
40秒たち、茶碗に複数回に分けて少しずつお茶を注いだ。
川田さんに教えられた通りに美味しく淹れたつもりだけれど自信はない。美味しいお茶を淹れるにはお茶の葉の量、湯の量、温度、浸出時間を調節しなくてはいけない。

沸かしてすぐのお湯を急須に入れて、揺すって緑色を出せばお茶の味がして飲めるものだと思っていた。カフェで働く私がコーヒーではなく緑茶を淹れる日が来るとは想像すらしなかった。

トレーに茶碗を載せ、立ったままの月島さんの前のテーブルに茶碗を置いた。

「粗茶ですが」

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