アフタヌーンの秘薬
「今度は緑茶の勉強がしたいからと龍峯にパートとして入った方なんです。実は緑茶も紅茶もほぼ同じですけどね。元々社員並みに緑茶の知識もあった方なので、川田さんに教えてもらえればすぐに覚えられますよ」
「はい……」
確かに川田さんの淹れたお茶はおいしかった。老舗お茶屋で働くにはあれくらいの技術を身につけなければいけないのかもしれない。それが私にできるだろうか。
「川田さんには及ばないだろうけど、ここで働く以上は梨香も本気で覚えろ」
聡次郎さんの言葉に不安な気持ちを増大させられた。
「わかってます」
素っ気なく言い返した。
この人は励ましてくれたり、他人事だと突き放したりと態度ががらりと変わる。そばにいると疲れてしまう。穏やかな月島さんとは大違いだ。
茶碗の中身を空にした聡次郎さんは「二煎目」と私に茶碗を突き出した。無言で受け取ると給湯スペースに行き、残った電気ポットのお湯を急須に注いだ。30秒ほど待って茶碗にお茶を注ぐ。
お金のため。生活のためなんだ。期間限定なんだから。
聡次郎さんとの付き合いを頑張って耐えようと自分に言い聞かせた。
不機嫌な顔をしているだろう私を聡次郎さんは面白そうに眺めていた。