アフタヌーンの秘薬

苦戦したのは包装紙で商品を包むことだった。長方形の袋に入れられた100グラム入りのお茶は包むのは簡単だけれど、数種類のお茶を箱に入れて包むのは何度か練習をしなければとてもじゃないけれどお客様に渡せるものではない。
四角いものならまだいいのだけれど、筒状の商品は回しながら折り目をつけなければいけないし、頼りないビニールに入ったお茶菓子などの商品は包装紙がボロボロになる。
老舗お茶屋のギフトが汚い包装では格好がつかない。お茶の知識と包装の技術が必要とされた。





会議室にお茶を持ってきてほしいと内線があったのはもうすぐでお昼というときだった。
各部門のリーダー格が集まる会議なのだから誰か自分でお茶を淹れればいいのに、自分たちで淹れた方がさぞ美味しいだろうと文句を言いながら川田さんと会議室まで大きなトレーに十数人分のお茶を載せ運んだ。

「失礼します」

会議室に入ると中央のテーブルを囲み役員と各店舗の店長がイスを埋めていた。

川田さんと協力して役員と店長の前に茶碗を置いていく。
社長である慶一郎さんと奥様の間に座った聡次郎さんの前に茶碗を置いても、彼は私を見ることもなくテーブルの上の書類に目を通している。そんな聡次郎さんを思わず睨みつけてしまった。
今朝突然頬にキスをされた衝撃を忘れたわけじゃない。聡次郎さんの中で私はただの婚約者もどきかもしれないけれど、付き合わされる私の気持ちを少しは汲んでほしい。

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