アフタヌーンの秘薬
◇◇◇◇◇



日中は暖かいと感じることが多くなる季節になり、今日は17時までの勤務を終えて駅から少し離れた事務所で着替えると、事務所の鍵を返しにお店に戻った。駅の構内からガラスの向こうの店内を覗くと、私が退勤する前よりも更に賑わい満席になっていた。

「梨香ちゃん」

お店の自動ドアの前で声をかけられ振り返ると常連のお婆ちゃんが立っていた。

「あ、こんにちは」

「こんにちは。梨香ちゃんはもう帰るの?」

「はい。今日はもう上がりです。もしかして食べに来てくれたんですか?」

「そうなの。でも今日はお客さんいっぱいみたいね。また梨香ちゃんがいるときに来るわね」

残念そうな顔をするお婆ちゃんに申し訳なさが増す。

「すみません、またお待ちしてますね」

笑顔でお婆ちゃんと別れた。もう何年も通ってくれるお婆ちゃんは私のことを「梨香ちゃん」と親しみを込めて呼んでくれる。離れて暮らすお孫さんと私が似ているのだという。

お店に鍵を返し駅を出ると自宅方面まで歩いた。夕方で帰るのではなく本当は閉店まで長くシフトに入りたいけれど、他の学生バイトとの兼ね合いもあって私だけが長時間働きたいというのは難しい。
もう1つ新しいバイトを探した方がいいかもしれない。求人情報を検索しなければ。

ふと横を見ると24時間営業のファミレスがある。

ここ、アルバイト募集してないかな?

ガラスの扉の周辺に張り紙がないか頭を左右に振って確認していた時、「すみません、駅の中にあるカフェの店員さんですよね?」と後ろから声をかけられた。
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