アフタヌーンの秘薬
聡次郎さんの言葉にがっかりしながら、私も自分で淹れたお茶を飲んだ。やっぱり淹れ方が上手くなっている。龍清軒の甘みを少しは引き出している。
お茶屋の人からすると私のお茶はまだまだなのだろう。けれど私より不味いお茶を淹れる聡次郎さんには言われたくないのに。
「梨香、二煎目」
そう言って空になった湯飲みを私の前に差し出した。
「もう飲んだの? そんなに飲むとお昼食べられなくなりますよ」
「ほっとけ」
聡次郎さんの湯飲みを持つと給湯スペースに行き電気ポットに残ったお湯を急須に注いだ。湯飲みにお茶を注いで戻ると、聡次郎さんが私の箸を持ってお弁当を食べていた。
「ちょっと!」
聡次郎さんが食べたのはニンジンの肉巻きだ。貴重なおかずに勝手に手を出されて怒らないわけがない。
「なに勝手に!」
「んー……まあまあだな」
口をモゴモゴさせてまたしても微妙な感想を言う。
「勝手に食べないでください!」
抗議なんて気にもしないで私の手から湯飲みを取ると「ごちそうさん」と言ってそのまま悪びれもせずに会議室から出て行った。
まったく……自分勝手な人なんだから……。
お弁当箱に立てかけられた箸はもう使えない。
「間接キスになるじゃんか……」
呟いても1人きりになった会議室では誰にも聞かれない。
仕方なく食器棚から割り箸を1善頂いた。聡次郎さんが使った箸が嫌なわけじゃないけれど、今朝は頬にキスをされ、その後に間接キスをするのは躊躇われる。あの人は一体何を考えているのだ。
会議室は静かでいいけれど、私の心は荒れていた。