アフタヌーンの秘薬
「いただきますね」
松山様は両手で茶碗を持つとじっくり味わうように飲んだ。
「おいしいわ」
「ありがとうございます」
ほっとした。お茶の知識と味がちゃんとわかっていそうなお客様に出すなんて不安だったから。
「龍清軒はどんな人も美味しく淹れられるから素晴らしい商品ね」
この言葉にほっとした気持ちはしぼんだ。私の淹れ方がうまいのではない。龍清軒が素人でも美味しく淹れることのできるお茶だと褒めたのだ。
「来客用にも普段使いにもできるのはここのお茶だけね」
「ありがとうございます」
川田さんは笑顔で応じたけれど私は上手く笑顔が作れない。
「今日もこれをいただきます」
松山様は龍清軒の袋を5袋レジに持ってきた。
「また来ますね」と言ってお店から松山様が出て行くと「ふう……」と川田さんは溜め息をついた。
「松山様は老舗旅館の女将さんで、旅館で使うお茶を買いに来るの」
「そうなんですね……」
「松山様の言葉は気にしなくていいのよ。誰が淹れたお茶にも厳しい評価なんだから」
「え?」
「あまりお茶を褒めない人でね。でもあの人に認められたら自信を持っていいかも」
では褒められる日がくることは永遠にない気がする。聡次郎さんにだって美味しいと言われたことはないのだから。
「厳しいことを言いたいだけなの。文句を言うけど必ず何かは買っていくんだから我慢我慢」
「はい……」