アフタヌーンの秘薬

振り向くと1人の男性が立っていた。見覚えのない男性は私より少しだけ年上だろう。スーツ姿で私をじっと見つめている。

「はい……そうですけど……」

突然職場を言い当てられて身構えた。この男性は私を知っているようだけど私は全く知らない人だから。

「あの、少しお話があるんですけど、お時間いいですか?」

「え? お話ですか……?」

「お時間は取らせませんので。この店の中で話しても構いません」

男性はファミレスの中へと手を差し示した。
もしかしてナンパだろうかとほんの少し気分が良くなったけれど、得体の知れない男性と近づくのは抵抗があった。
男性は背が高く、程よく筋肉のついていそうな体形だ。万が一体に触れられでもしたら抵抗できる自信がない。

「お願いします。僕の話だけでも聞いていただけませんか?」

必死な顔で私を見るこの男性に「少しだけなら」と返事をしてしまった。店員や他のお客さんのいるファミレスの中なら最悪の状況になっても助けを求められるから、話だけは聞いてみようと思った。どうしてこの人が私の職場を知っているのか気になったのもあった。

席に案内されると向かい合って座り、男性はメニューを差し出した。

「好きなのを頼んでください。僕が奢りますから」

「でも……」

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