3度目のFirst Kiss
「ううん、大丈夫。ちょっと、休憩してただけだから。それに、生田君は楽しそうに飲んでたじゃない。私の事は気にしないで。」

「俺は、広瀬さんと飲みたかったんです。」

彼がさらに距離を縮めて来る。
これは、完全に揶揄われているんだ。
男慣れしていない歳上女を揶揄って、
何が楽しいんだろう。

それでも、この距離と彼の言葉に、私の顔がどんどん赤らんでいくのが自分でも分かる。
それを生田君にはバレたくなくて、私は急いで立ち上がった。

それなのに生田君は、後ろに下がる事もなく、
そのまま、私に視線を合わせて来る。
そうなると、二人の距離がさらに近くなって、
私は思わず仰け反った。

生田君は咄嗟に私の腕を掴み、自分の方へと引き寄せる。今度は、その反動で彼の胸に飛び込む形となり、また、驚いて顔を上げると、すぐそこに彼の顔があった。

「あっ。」
「あっ。」

お互いの声が重なる。

ここまでは、私にしても生田君にしても、本当に偶然だったと思う。

でも、その後、生田君は離れようとする私を更に引き寄せて、あっという間もなく、キスをした。

それは、とても軽い軽いキスだったけど、確かに二人の唇は重なった。

驚きすぎて、声が出ない。

これは偶然なの?

私はさっきよりも強く、生田君を押し返して、
トイレに逃げ込んだ。

これが私と生田君のとのキスの全てだ。
これをキスだと思って、動揺しているのは私だけかもしれないけど。
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