3度目のFirst Kiss

「まず、田崎が生田君のキスのことを叫んだ時、みんなが田崎の方を見たのに、先輩だけが咄嗟に下を向きましたよね。その後、誰にも気づかれない様にそっと部屋を出て、帰って来なかった。」

奈緒子は田崎くんが嫌いらしく、私の前では田崎君のことを「田崎」と呼ぶ。

「私が出て行った後、生田君が戻って来たでしょ。どんな風になったの?」

私は、それがどうしても知りたかった。
どうやって、生田君が話を収めたのか。

「生田君が戻って来た時は、それはもう、大騒ぎでしたよ。でも、生田君はとぼけてました。すごい演技力だったな。」

ちょっと、想像できる。

「田崎へ『何、言ってるの?』って感じで質問攻めにして、結局は、酔っ払った知らない女性客に絡まれたってことになりました。抱きつかれそうになったのを必死に避けたから、それを田崎が勘違いしたんだって。」

生田君だから、知らない女性に絡まれたってことになっても、みんな、信じるんだよね。

「まぁ、みんなが、どっちを信じるかって言うのも、普段からの態度の差が出ましたよね。女の子達は、嘘でも生田君の言葉を信じたいって気持ちがあるし。その後、田崎へブーイングが起こってた。まぁ、お酒の席だし、それで終わりって感じになったかな。」

< 36 / 129 >

この作品をシェア

pagetop