3度目のFirst Kiss
「あー、まだ、途中だな。これ、どうする?生田。」

「残りは僕がやります。僕もスケジュールは把握してますから。」

多分、奈緒子は、展示会前日の設営と当日の運営での各現場での役割とスケジュールのマニュアルを作成していたんだろう。

「でも、生田の仕事もあるだろ?イベントは木曜日からだし、明後日には前乗りで行かなきゃならないのに、間に合うのか?」

「はい、何とか間に合わせます。僕は1日ぐらい寝なくても平気ですから。」

この部署には、他に手伝ってくれる人はいないんだろうか。

周りを見渡すと、残っているのは営業の坂下君と新人の女子社員だけだった。
坂下君は別の案件を抱えている。

奈緒子の話だと、新人の彼女も現場には同行するけど、まだ、戦力にはならないと言っていた。
これから成長する人材なんだから、仕方ないって。

彼女もどうしていいか分からず、視線を落としたままだ。でも、彼女に悪気があるわけではない。
だって、彼女の体は小刻みに震えている。

他には田崎君がいるけど、彼が手伝ってくれると思えない。彼にとっては、生田君は蹴落としたいライバルなのだから。

私は、咄嗟に提案をしていた。

「あの、私が手伝いましょうか。今日は、私の仕事は終わって帰ろうかと思ってたところなので、もし、許可が下りるなら。」

ここで、黙って帰る訳にはいかない。後ろ髪を引かれて帰っても気になるだけだ。

「そんな、いいですよ・・・。」

生田君が断りの言葉を言いかけたのを遮って、北村さんが、私の肩を掴んだ。

「ありがとう、広瀬さん。そうしてもらえると、すごく助かるよ。この展示会は、広瀬さんが昨年まで担当してたものだし、安心して任せられる。僕が、部長と梶には掛け合ってくるから。」

北村さんはすぐに踵を返すと、まず、部長の元へと向かった。こうゆう時の北村さんの行動力はすごい。

ここからでも、北村さんが大袈裟な程に深刻に部長に話をしているのが分かる。
北村さんは悪い人じゃないけど、調子がいいところがある。でも、何故か憎まれない人たらしだと言われてる。

部長の承諾を得た様で、今度は梶さんのところに向かっていくのが見えた。
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