3度目のFirst Kiss
「話は聞いたよ。でも、広瀬は大丈夫なのか?広瀬だって、来月の準備があるだろう。」
梶さんは、私が手伝うことに賛成ではないようだ。
「そうですよ、広瀬さんだって忙しいでしょ。僕なら大丈夫ですから。」
生田君が梶さんの様子を察して、私のヘルプを断ろうとする。
「生田、何を言ってるんだ。部長からも承諾を得てるし、お前まで倒れたら、それこそ、大変なことになる。ここは広瀬さんに甘えさせてもらえ。」
私は、北村さんの言葉に小さく頷いた。
北村さんは、今度は梶さんに向かって言葉を続ける。
「梶、お前だってイベント前の大変さは分かってるだろ。それなのに、主力の一人が倒れちゃったら、回らなくなるのは簡単に想像できるだろ。ここは同期のよしみで助けてくれよ。」
「自分のチームのことは、自分のチームで解決しろよ。俺のチームまで巻き込まないでくれ。」
「梶、冷たいこと言うなよ。この借りは必ず返すからさ。そうか、お前、広瀬さんが俺たちのチームの仕事をするのが嫌なんだろう。やっぱり、3課に戻りたいとか言われても困るしな。」
北村さんが、余計な一言を言った。
「いえ、それはありません。私、1課の仕事も好きですし、梶さんの下で働くのは、本当に勉強になります。ただ、今回は山根さんのことが心配なんです。彼女、頑張りすぎるところがあるし、このままだと責任も感じちゃうだろうから。」
これが、私の本心だ。いつも、奈緒子は私をいろんな意味で助けてくれる。だから、今回ぐらいは彼女を助けてあげたい。
「広瀬さんもこう言ってるだし、いいだろ、梶。
水臭いこと言わずに広瀬さんを貸してくれよ。」
「広瀬がそこまで言うなら。もし、1課のイベントの方で俺ができることなら、それはこっちでもフォローするよ。それから、北村、広瀬は物じゃないから貸すとか言うのは頂けないな。」
「梶、ありがとう!さすがは同期だな。」
北村さんは、梶さんの忠告なんて耳に入ってない様だ。
「梶さん、ありがとうござます。山根さんが元気になるまでなので。明日になれば、元気になってるかもしれないですし。それに私は1課の仕事も穴を空けるつもりはないですから。」
私は梶さんに頭を下げた。
「頭を下げるのは、広瀬じゃないだろ。広瀬は手伝う側なんだから。全くお人好しだな。取り敢えず、無理はするなよ。」
梶さんは、半分諦めたような顔をして、席に戻って行った。