3度目のFirst Kiss
私は、矢沢さんさに連絡することにした。
以前、矢沢さんと会った時に連絡先を交換していたけど、内心、使うこともないだろうと思っていたのに、役に立つ時がやって来た。
トゥルル、トゥルル・・・。
何度かの呼び出し音の後、矢沢さんに繋がった。
「もしもし、矢沢です。」
「もしもし、奈緒子さんの同僚の広瀬と申します。突然、お電話してすみません。以前、お会いしたことがあるのですが・・・。」
「もちろん、覚えてますよ。いつも、奈緒子がお世話になって、ありがとうございます。それで、何かありましたか?奈緒子がどうかしましたか?」
矢沢さんは丁寧な挨拶をしてくれたけど、その口調は早口で、彼の焦りが伝わってくる。
「実は、今日、奈緒子、会社で体調を崩してしまって。今は、大分落ち着いているので、家に連れて帰って来て、奈緒子は眠っています。ただ、まだ、熱は少しあるみたいで。」
「そうですか。奈緒子のこと、ありがとうございます。僕も今から会社を出るところなので、そちらに向かいます。申し訳ないですが、それまで、奈緒子の側にいてもらってもいいですか?」
目には見えないけど、奈緒子を心配する気持ち、奈緒子への愛情が電話口から溢れ出しているような気がした。
「はい、もちろん。矢沢さんがご都合が悪いようなら、私が泊まるつもりでいましたから。」
それでも、私が矢沢さんに電話したのは、私には、明日の朝、きっと無理をしてでも会社に行くと言い出す奈緒子を止める自信がなかったからだ。
「何か、必要なものとかありますか?途中で買っていきますから。」
「じゃあ、氷とお水、あと栄養剤入りのゼリーなんかがあればいいかもしれません。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします。なるべく早く、行きますので!」
多分、矢沢さんは、電話の向こうで頭を下げているだろうなって想像する。