3度目のFirst Kiss
「それは、日程を変更できないのか。」

「はい、新規の顧客なんですが、決まれば、かなり大きなイベント開催になる予定なので。」

「それは、困ったな。」

「大丈夫です。現地では、僕が何とかしますから。これ以上、皆さんに、ご迷惑は掛けられません。」

生田君が空気を打破する様に宣言してみせた。

ただ、部長にとっては、生田君の意気込みだけでは、納得できないんだろう。

「いや、確かに生田君の仕事振りは、評価してるよ。しかし、今回の様な大きな案件では、生田君と川口さんだけでは、難しいだろう。なぁ、広瀬さん。」

私は、突然、部長から自分の名前を呼ばれて、思わず、背筋が伸びる。

「はい。何でしょうか。」

「いや、梶にもだ。すまんが、今回の展示会、広瀬さんにも手伝ってもらうことはできないか?」

「部長、それは広瀬が出張に同行するということですか?それは、本来、3課の人間が行くべきじゃないかと思いますが。」

梶さんも引き下がらない。

「確かに、本来は梶の言う通りだと、私も考えているよ。ただ、今の3課には山根さん程、展示会を分かっている人間で都合が付く者がいないんだよ。」

「いや、うちだって、次のイベントの準備で余裕のある人間なんていませんよ。特に、広瀬には、重要なイベントの準備を任せていますから。」

「そのイベントはいつなんだ?」

「来月の10日からです。」

「じゃあ、まだ、1ヶ月近くあるな。」

梶さんの情勢が悪くなっていく。周りは、ただ、黙って成り行きを見守っているだけだ。

「頼む、梶。私の顔に免じて、今回だけは、広瀬さんを展示会に同行させてくれないか。会社としても、毎年見込める大きな収益なんだよ。」

さすがに、上司である部長に頭を下げられてしまうと、梶さんも無碍には出来ない。
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