3度目のFirst Kiss
会場に到着すると、すぐに準備に取り掛かった。

私の身体は反射神経なのか、川口さんと2人になると、動きが硬くなる。

「お疲れ様です。11時から設置業者さん達と打合せだから、ファールの方に来て下さい。」

私は、口調も明らかに不自然になり、事務的な敬語で川口さんに連絡事項を告げる。

「はい、分かりました。それまでは、何をしてればいいですか?」

11時までには、後、20分程の時間がある。

「じゃあ、本部に必要な物を段ボールの中身を出して、運んだいてもらっていいですか?」

自分でも話し方に違和感があるけど、それを崩してしまうと、私情が挟まれてしまいそうで、怖かった。

「はい、了解しました。」

彼女は、段ボールの中から、本部用と書かれた物を選び出し、梱包を解いていく。

私は、川口さんに段ボールの仕訳を任せて、今日の2度ある打合せの資料をコピーすることにした。

「川口さん、私はとなりの部屋で資料の準備をしてるから、なにかあったらいつでも呼んでください。」

「はい、承知しました。先輩、私はこう見えても、公私混同はしないタイプなので、仕事はちゃんとしますから、よろしくお願いします。」

彼女は私よりずっと歳下なのに、私よりずっと上手だ。私の不自然な言葉遣いに気付いてのことだろう。

でも、彼女の仕事に対する姿勢に嘘がないなら、そこは先輩としてのフォローはしなければならない。
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