3度目のFirst Kiss
11時からの打合せはスムーズに進んだ。
大きな変更もなかったので、後は、設営のプロの人達に任せればいい。彼らの手際や連携は、当然だけど素人の私達には絶対に真似できない。

ある程度の設置が進むと、私と生田君は受付のデスクの位置やスタッフの立ち位置を再確認するため、フロアを回る。

「ここまで、スムーズに進んでいるのは、広瀬さんのおかげです。本当に感謝しています。」

生田君が歩きながら、急にそんな事を言い出す。

「お礼を言ってもらうのは、嬉しいけど、展示会が全て終了した時でいいよ。まだまだ、始まったばかりなんだから。」

「いえ、広瀬さんがここにいてくれるだけで、感謝です。僕がどんなに心強いかってことです。広瀬さんは、梶さんが、あんなに嫌がっていたのに、それでも来てくれた。」

「梶さんも来月にはイベントを控えてるしね。でも、私は、生田君や奈緒子が今まで頑張ってきた努力に少しでも役に立てたらなって思ったの。」

「僕は、梶さんが反対した理由は、それだけじゃないと思ってますよ。梶さんが仕事に私情を挟むのは珍しいなって。」

「私情?」

「広瀬さんの鈍感力って、ある意味、驚異的ですね。僕は、それに安心していいのか、悪いのか。そう言えば、よく山根さんが言ってます。」

「何を?」

「『彩華先輩を甘く見ちゃダメだよ。』って。確かにその通りだと今、実感してます。」

「よく分からないけど、仕事のことは遠慮なく言ってね。」

「仕事は完璧です。広瀬さんは、僕にとっては、
色んな意味で難攻不落です。」

鈍感で、難攻不落?

生田君からは私はどうな風に映っているのだろう。

本当は、自分の気持ちにもちゃんと向き合えない、女としての自信が持てないから、仕事に逃げているだけなのに。
3年前のあの時から、ずっと・・・。
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