恋はたい焼き戦争
「卒業後って聞いてたのに…」
「何か早まったんだよね…だから鈴には悪いけど卒業する前にこっち来てもらうから」
「そんな…」
「なかなか言い出しづらかったんだろうね?
じゃ、そういうことだから」
ひらひらと手を振って去っていく勇輝君。
こんなにも自分の誕生日が来なければいいって思ったの初めてだ。
もう、あと1ヶ月ちょっとしかない。
「…鈴ちゃん?」
かえで君とも、もう一緒に学校に行けなくなるね。
まーくんが寒さに身を震わせながら、マフラーに顔をうずめるところを見るのも。
昴がたくさんの女の子に絡まれてるのを、ああまただよなんて呑気に見ることも。
匠さんが昴のことを大事そうに話すのを聞くことも。
向川部長と一緒に演劇することもできなくなってしまう。
今まで作り上げてきたものがなくなるわけじゃない。
忘れてしまうわけでもない。
それでも、みんなと未来を過ごしたかった。
傍にいたかった。
「あの人、誰?」
「えっと…ちょっと、その…知り合い?」
泣きそうになるのを必死に堪える。
今ここで私が泣いても、変にかえで君を心配させるだけ。
みんなには何も言わず、何も知らせず、この国を出て行こう。
だけどそれまでは、みんなとの思い出をたくさんたくさん作らせて…
それだけが、今の私の願いだから。