恋はたい焼き戦争
『こんな親不孝な娘でごめんね…』
自分の家を、親の仕事を悪く思うなど子供としてあるまじき行為だろう。
でもお父さんは
『そんなことない、鈴はよく頑張ってくれているじゃないか。
家族のことは秘密にしなければならない。
友達を家に連れて来ることはできない。
身の危険だって感じたかもしれない。
でも、なにより
父さんたちがどんなに遅く無様な格好で帰ってきても、何一つ嫌な顔をせずいつも笑顔でいてくれただろう。
謝るべきなのは娘にこんな苦労をかけている私のほうだよ』
すまないな、と一つ頭を下げてこう続けた。
『だがな、1つだけ覚えていてほしい。
鈴は佐和田組の娘だ。
…でもその前に父さんと母さんの娘なんだ。
子供は少しくらい自分勝手で、わがままでいいんだよ』
頭を撫でていた手は私の両肩をつかみ、自分と目を合わせるようにする。
『お前はお前らしくいればいい。
聞きたいことは聞けばいいし、言いたいことは言えばいい。
変に気を遣わなくていいんだよ』
私の中で何かがストンと落ちた気がした。
今までずっと家族だと思っていても、どこか遠慮気味だったのかもしれない。
どこか一線を引いていたのかもしれない。
お父さんの言葉で自分はちゃんと家族の中に入っているのだと、そう実感できた。