恋はたい焼き戦争
「ああー頑張った…」
今日は1日長かった。
あんなに必死に先生の話を聞いて綺麗に見やすくノートを書いたのは初めてだ。
帰ったら写真撮ってまーくんに送らなきゃな。
そんなことを思いながら終会で喋っている先生の話を聞き流す。
部活は今日から本格的に大会へ向けた練習を始めるのかな…
台本も最後まで決めてくれたようだし。
「鈴姉ちゃーーん!」
私が部室へ行こうとすると焦った様子でかえで君が走ってきた。
「かえで君?どうしたの」
「まーくん早退したって本当なの?!
朝からしんどそうだったけど…大丈夫なのかな?!」
くりっとした目を大きく見開いて私の肩を揺らす。
「まーくんなら大丈夫だよ。
でも帰り、お見舞いに行こっか」
私がそう言うと心配そうだった顔がぱあっと輝いてうんうんと頷く。
まだ教室にいた昴も誘って3人で部室に向かった。
「それじゃあ部活を始めるが…」
向川部長はぐるりと私達を見回したあと少し申し訳なさそうな顔をして
「今回の台本はこの通り完成したんだが…誠には無理をさせてしまった。
帰りにみんなで見舞いに行こうと思うんだが、このあと用事があるって人はいないか?」
手を挙げる者はいなかった。
部活は台本を配り目を通すだけに終わった。
まーくんの家のインターフォンを鳴らす。
「はいはいー」
「こんばんは」
家から出てきたまーくんのお母さんは私達の突然の訪問に驚いていたが、すぐに彼の部屋まで招き入れてくれた。
「こんな、みんな入れるか分からないけど…あの子も喜ぶと思うよ、ありがとね」
まーくんはベッドで横になっていたのに、私達が来たのに気付いて体を起こしてくれた。
「お手を煩わせてしまってすみません…寝たら大分と良くなったので明日には問題なく行けると思います」
「いやいや誠の謝罪を聞きに来たんじゃない。
それに言うなら俺が無理させてしまいすぎたんだ、すまないな」
部長がそう言うとかえで君は手に持っていたお見舞いの品を渡した。
「わ、これは…!」
「リンゴジュースにリンゴゼリー、全部まーくんが体調悪い日に食べたいやつだよ!」
それは私だからこそ分かること。
まーくんには風邪を引いたりしたときに必ず食べるものがある。
栄養豊富なりんご。
手軽に飲めるジュースと喉の炎症にも効果があると言われているはちみつを入れたゼリー。
この2つはたとえ食欲がなくても食べていたことを思い出して、お店に寄って買ってきた。
まーくんはこれを見てふわっと笑ってから静かにありがとうと言った。
そのあとは、彼にも台本を渡して軽く読みあわせをしたり他愛もない話で盛り上がったりした。
後ろではそんな私たちをまーくんのお母さんが1人微笑みながら見ていた。