恋はたい焼き戦争


お母さんに宛てた手紙。

送り主は

「…お父さん…」

お父さんでした。

ずっとやり取りをしていたのか、机の中はたくさんの手紙で溢れていました。

それをこっそり一通ずつ読み進めていくと、

お父さんが狼男になってしまったということが書かれていました。

「嘘…」

そして、赤ずきんが新しいお父さんをよく思っていなかったことまで書かれていました。

家を抜け出したあの夜、赤ずきんの悩みを聞いてくれていたのはお父さんだったのです。

お父さんはずっと彼女のことを見守っていました。

赤ずきんの心情を知ったお父さんはある計画を思いつきました。

それは、狼である自分が赤ずきんを襲い新しいお父さんが助けるというものです。

あの日、おばあちゃんをお見舞いに行くことも、

狼がお花を摘むことを勧めたことも、

狼がおばあちゃんになりすましていたことも、

赤ずきんが狼に食べられることも、

狩人が助けに来ることも、

全て、新しいお父さんを受け入れてほしいというお父さんの考えだったのです。

『彼はきっとお前も、そして赤ずきんも幸せにしてくれる。こんな化け物みたいな俺じゃなくて…
だから必ず成功させなければいけないんだ』

お父さんは手紙で、そうお母さんに言いました。

お母さんがこの言葉に対してなんて返事をしたのかを知ることはできませんでしたが、赤ずきんは何となくわかっていました。

「…赤ずきん!」

「お母さん…」

「見て、しまったのね…」

お母さんは崩れるように赤ずきんを抱きしめました。

「赤ずきん…こんな真似をして、怒ったでしょう?」

騙されていた、そう言ってしまえば腹も立ちます。

でも、それは愛に溢れていたから。

お父さん、お母さんからの愛を感じたからこそ赤ずきんは怒ってなどいませんでした。

「私、幸せだもの。
きっとお父さんはこれを望んでいて、それを叶えるためには仕方のなかったことなのでしょう?」

「赤ずきん…」

そんなことよりも、赤ずきんには気になることが1つありました。
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