恋はたい焼き戦争
「お父さんは、どこにいるの?」
「…そうね。お父さんのところに行きましょうか」
そうしてお母さんが連れてきたのは川辺でした。
それは、あの夜抜け出してきた川辺。
お父さんと話した川辺でした。
少し広くなったところに墓石が建てられていました。
お父さんの名前が書かれています。
「お母さん、これ…」
「お母さんが今の人と再婚してすぐ…
まるで私たちの幸せを見て満足したような終わり方だったわ」
全てを知って、それなのに赤ずきんはお礼を言うことすらできませんでした。
「愛してくれてありがとう…」
赤ずきんはお花を供えました。
おばあちゃんのお見舞いに摘んで行ったものと同じお花です。
どこかでお父さんが微笑んでいるように思えました。
『父さんはお前の幸せをいつまでも願っているよ』
そう、言われているような気がしました。
赤ずきんは喪失感と、その喪失感を上回る愛情を感じました。
「お父さん、ただいま!」
「赤ずきん、おかえり」
新しいお父さんは、このことに関して何も知らないようでした。
ただ、狼から愛する赤ずきんを救っただけなのです。
そして、この平穏な幸せをくれたお父さんに感謝をするために、赤ずきんは毎日お墓にお花を供えに行きました。
「私、お父さんの娘でよかったよ」
赤ずきんにとって最悪のあの日は、愛情に溢れた最高の日になりました。】