Drinking Dance
私にできる精いっぱいのキスは、たったのこれだけだ。

柔らかいその唇にいつまでも触れていたいと思ったけれど、あまり長い時間触れていたら何事かと思われて不審がられてしまう。

そっと、まるでシールを剥がすかのように丁寧に唇を離した。

その瞬間、ふらりと足元がぐらついて、
「――おっと…」

星崎さんにもたれかかるように倒れ込んだ。

「な…直子さん、大丈夫ですか?」

私の顔を覗き込んで心配そうに聞いてきた星崎さんと目があった。

「――あっ…」

彼の眼鏡越しの瞳には顔を真っ赤にさせた私が映っていた。

そんな私の躰を星崎さんが支えていることに気づいた。

「す、すみません…」

慌てて躰を離して謝った私に、
「ぼ、僕の方こそ、何だかすみませんでした…」

星崎さんは呟くように謝った。
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