劇団「自作自演」
「いいや。」敦くんは頭を振った。
「何かそれと関係があるのか?」
「リンゲルマン効果っていうのは、40人で掃除をするのと、1人で掃除をするのとでは、1人分の作業量が低下するってことなの。40人もいるんだから、『私くらい居なくても……。』って心理が働く。でも、1人しか居なければ、『私がやるしかない。』って心理になる。」
「話が見えてこねえ。」
敦くんは昨日私たちが飲んだ缶コーヒーの空き缶を寝転んだまま蹴飛ばした。
「例えば、用務員さんがあのことを報告したとして、それを生徒が登校してくるまでに消してしまうことは、不可能。例え30人がかりでもね。だからって言って、単独でできるとも思えない。」
「でも、誰かが消したとしか思えねえ。そうじゃなきゃ困るんだ、ああ、困るさ。オレは今、夢でも見てるのか? それとも2人して変な夢でも見ちまったか? そうなのか? なあ? どうなんだよ、香澄さんよお!」
敦くんは起き上がるなり、私の身体を揺さぶった。
「香澄さん。オレを殴れ。思いっきり。メロスとセリヌンティウスの関係なんかじゃなく、憎しみを込めて殴ってくれ。そうじゃなきゃ気が済まねえ。オレはまだ夢を見ちまってるんだ。覚ましてくれ、この悪夢から救ってくれよ、なあ! おい!」