劇団「自作自演」
事件が起きたのは、それからだ。
朝、登校してくると教室で松田くんと高倉くんが殴り合いの喧嘩をしていた。
その傍には北條さんがいて、ああ、遂に修羅場を迎えてしまったのだと気付いた。
周りは止めることはしなかった。止められないのだ。
「いいか? これは男と男のタイマンなんだ!」
松田くんがそう声を荒らげたからだ。
そう言われてしまうと、誰も止められなくなる。集団で一人をいじめるという卑怯なことは、していなかったし、喧嘩の強い松田くんと体格のいい高倉くんの競り合いを一体、誰が止められるというのだろうか。
止める理由もなければ、止められる術もない。
そして、喧嘩はどんどん過激化していく。
BGMこそないものの、ウェストサイドストーリーのミュージカルを観ているような気持ちになった。
殴り合いは、更に激化する。松田くんが倒れ込み、鼻血を拭いながら、立ち上がった。
その時、周りにいるほとんど全員が身の危険を感じた。
……きりっ、きりっ、きりっ。
松田くんの手にはカッターがあった。