劇団「自作自演」
「少し寒いな。」
私をあんなに動揺させて、わざわざ寒い屋上へと招待したのは、同じクラスの野崎くんだ。
野崎敦くん。軽音部に入っていて、先週の文化祭では、スタンドマイクを前に、タンバリンを膝で叩きながらそのしゃがれた声でロックを披露した。
女子からの人気も高く、学校誌(新聞部が毎週金曜日に発行する新聞)ではたびたび記事になる。
「確か、先週は付き合いたい男子ランキング3位だっけ?」
おもむろにそう訊いた私だったが、野崎くんはそれには答えず、屋上のフェンスに背中を預けた。
「頭髪は黒。」という校則があるにもかかわらず、野崎くんの髪色は、やや茶色く焼けていて、それが夕日に照らされて、今この場に先生がいれば、「染め直してこい!」と注意するかもしれないほど、輝いて見えた。
「どうしてあのルーズリーフが私のものだってわかったの?」
野崎くんは何か別のことを考えていたようにうわの空で、「んあ?」と声を漏らし、それからそのわけを説明してくれた。
「オレも一番後ろの席だから。」
端的に、明確に。