劇団「自作自演」
「さて。劇団『自作自演』の旗揚げ公演と行こうか。」
野崎くんはフェンスから背を離し、伸びをしながら言った。
「劇団『自作自演』かあ。ってことは、座長は私で、プロデューサーが敦くんってことになるね。」
「演出も兼ねてだがな。まあ、見てろって。面白くいじめられっ子にしてやるからさ。」
「敦くん、そこは『面白く』じゃなくて、『クレイジーな』じゃない?」
陽はすっかりと傾いてはいたけど、なぜか秋の寒さはどこかに飛んで行っていた。
そして、隣で前髪を気にする男子を「キミ」から「野崎くん」、更には「敦くん」という呼び方にいつの間にか変わっていたことに気づき、少しだけ恥ずかしくなった。
異性を下の名前で呼ぶことは、私にとって、高校生活で初めてのことだった。