劇団「自作自演」
「やるじゃねえか、香澄さん。いいぜ、おい! いいぜ、おい! おい! おい! クレイジーさ。イカレてるよ、おい! そうだ。そうさ。演じるんじゃねえ。心を現し、表すんだ。それが『表現』ってヤツさ、香澄さん。ひゃっほー! こりゃいい!」
そこからは、2人で狂ったように、汚い言葉を書き殴った。
チョークが何本も折れ、爪で黒板を引っ掻く音が響き、色んな色が入り交じって、それが月明かりに照らされて、悪事をより鮮明に浮かび上がらせていく。
敦くんは、前列の何個かの机を蹴飛ばした。
音を立てて机が倒れ、中の教科書や文房具が辺りに散らばった。
私は、その中にあった黄色いカッターを拾い上げ、刃を月明かりにかざした。
いつか、このカッターが、誰かの手によって、誰かを傷付けることを願った。
カッターをその場に落とした。
そして、呼吸を整えて、改めて自分の席からの景色を堪能した。
明日の朝、ここでクラスメイトが怯える姿が目に浮かぶ。
敦くんは急に笑い出した。
「いいなあ、おい! オレは生まれてこのかた、明日が来ることを楽しみに思ったことはねえ。夜明けだ。もう夜明けだぜ? 坂本龍馬だっけか? 大政奉還を成し遂げた翌朝は、こんな気分だったのか? なあ、同じ坂本姓としてどう思うよ? 香澄さん。」
「そうね……。」ちょうど黒板が月明かりから朝焼けに変わった。
「きっと清々しい気持ちと、希望に満ち満ちでいたに違いないわね。」
それから、敦くんと屋上へ向かった。
本来の計画とは違ったけど、そんなことどうでも良かった。
朝日を直に浴びたかった。朝靄を直に感じたかった。
希望の、改革の、夜明けを2人っきりで、2人だけの場所で迎えたかった。