猫かぶりな伯爵の灰かぶりな花嫁
まず、コニーにも手伝ってもらい菓子を焼いた。

庭の日当たりの良い場所に生えたミントやヤグルマギク、カモミールなどを混ぜ込んだ菓子を、お茶の時間に得意満面でラルドに出したところ、一瞬ものすごく苦々しい顔ををされたのはどうしてなのか、グレースにはわからない。

グレースが固唾を呑んで見守る中、恐る恐る口に運んだそれを、ゆっくり咀嚼し飲み込んだ彼は渋面を和らげた。

「驚いたな。美味しいです」

胸を撫で下ろしつつ、自分もひとつ摘まむ。使用した蜂蜜がほどよく効いて、ミントを浮かべた爽やかな香茶とよく合う。

おかわりを用意しているコニーの足にまとわりついていたライラが、好奇心一杯で夫妻の口元を凝視していた。

「ごめんなさい、ライラ。これはあなたにはちょっと早いわ」

香草入りの堅焼きの菓子は、まだ歯も生えそろわないライラに与えることはできない。その代わりにと、グレースは瓶の中から小さな丸い菓子を取りだし、巣で待つひな鳥のように目一杯開けられたライラの口に落とす。
産みたての卵と貴重な砂糖をたっぷり使用した焼き菓子は、口の中でほろりと崩れるので幼い子でも食べられる。これもグレースの母が、昔よく作ってくれたものだ。

もっと欲しいとせがむライラに、もうひとつだけと念を押して口に入れてあげる。幼子に向けるグレースの柔らかな眼差しの前に、興味を持ったラルドの大きな手の平が差し出された。

「僕にもひとつください」

「いいわよ」

グレースがコロンと手の平にのせたそれを、ラルドは指先で摘まんで十分に眺めてから味わう。先に食べたものよりも強い甘さに目を丸くしながらも、優しい食感が気に入ったらしい。いい年をして、ライラのように次をねだる。

「ダメよ。これはライラのために作ったのだから」

グレースはしっかりとフタをして、母親であるコニーに残りを託した。

「ラルドにはまた今度作ってあげるわね」

「楽しみにしています」

微笑み合う夫婦の周りには、菓子以上に甘い香りが漂っていた。
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