猫かぶりな伯爵の灰かぶりな花嫁
「そうですか」

だから本当にそんな感想しか出てこない。向こうだってそうだろう。それなのにイワンは嬉しそうに話を続ける。

先王である父親のこと。まだ幼い、腹違いの弟妹の様子。どれもこれも、グレースにとってはどうでもいいことばかり。いい加減、適当な頷きを返すのも面倒になったころ、侍従が来客を告げた。

「ようやくラルドが来たか」

国王自らが立ち上がって出迎えようとするので、グレースも椅子から腰を上げて頭を垂れる準備をする。が、現れた人物の名を聞き摘まんだ裾を離してしまう。

「お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした」

「いいや。こちらこそ、忙しいところをすまない。ともかく座ってくれ」

優雅な礼に、イワンはにこやかに応えて彼にも椅子を勧めた。そこでグレースもいたことに気づいたようで、ラルドは軽く目を瞠ってからすぐに微笑みへと変える。

「これはこれは。グレース様もご一緒でしたか」

彼女にも丁寧に腰を折って挨拶すると、主が席に戻ったのを確認してから、迷いのない足取りでグレースの隣の椅子に腰を下ろした。
手短に用件を終わらせてほしいのに、イワンは先ほどグレースにしたものと同じ話を始める。うんざりしつつも、まさか国王に対してそれを言えるはずもない。

微笑みをたたえたまま話に聞き入るラルドの横で、彼女は目を細め、イワンの後ろに飾られた絵画を眺めていた。
どこから見たの風景を描いたのかはわからないが、白い雪を被る鋭い頂きは国の北西に連なる山脈だと推測する。

あとふた月もすれば、あの絵のように雪に閉ざされる季節がまた王都にも訪れる。

「……てはどうでしょう? 叔母上」

「え? ええ、そうですわね」

上の空で聞いていたため、内容もわからずに適当な返事をしてしまう。

「ああ、よかった。ラルドはどうだ? まだ正式な話ではないのだから、忌憚無く言ってくれて構わない」

水を向けられたラルドは、真横にいるグレースにほころばせた顔を向けた。

「グレース姫を私めの妻になどと、願ってもいない陛下からのお申し出に感謝いたします。ヘルゼント家としても、私個人としても、謹んでこの縁談をお受けしたく存じ上げます」

「え、縁談ですって? 誰が誰とっ!?」
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