猫かぶりな伯爵の灰かぶりな花嫁
「お店を持ちたいとかは思わないの?」
するとコニーは初めてここで手を止めた。
「そんなこと、考えてもみませんでした。でもきっと私には無理です」
「どうして?」
グレースが不思議に思って訊ねると、コニーは小さく笑って再び手を動かす。
「王都で仕立屋を開いていた父が亡くなったとき、母がひとりでも店を続けようとしたんですけどダメでした。女店主だということでいろいろ難しかったみたいです」
「そんな……」
理不尽に眉を曇らせたグレースに、コニーはいつもどおりの明るい笑顔を見せた。
「それにたぶん、私には性に合わないと思うんですよね、注文どおりの服を作るのって。その点伯爵家では、好きなように作らせてもらえるので楽しいんです」
フィリスは自分の着るものに無頓着だったため、コニーは存分に腕を振るえたのだと嬉しそうに言う。今回の衣装も、ラルドは彼女の好きなようにしていいと伝えたそうだ。
「材料費を気にせず、自分好みの服を作れるんですよ?こんなに好条件の仕事はほかを探してもありません!」
興奮して熱く語る彼女に、使用人が雇用条件に満足しているならと、グレースは頷くしかなかった。
言われるまま、グレースは腕を上げたり下ろしたり、立ったり座ったりを繰り返してようやく作業は完了する。たいした動作をしたつもりはないのに疲れて、長椅子に座り込んでしまった。
測定結果を詳細に記した紙や道具を片付けていたコニーが、椅子の背にもたれ天井を仰ぐグレースを見て微笑む。
「やっぱり叔母様なんですね。フィリス様とよく似ていらっしゃいます」
「……わたしはあんなに綺麗な娘じゃなかったわ」
月の女神の化身とまで謳われた姪と比べられても、お世辞にも聞こえない。自分が平凡な顔立ちであることは、生まれた時から知っている。
「お顔立ちじゃなくて、姿勢というか立ち姿がですね……っ!?」
自分の失言に気づいたコニーが慌てて口を手で塞ぐ。
彼女に悪気も嘘のないことは重々わかっているので、グレースは都合の悪い部分だけを訊かなかったことにした。
「姿勢?背格好ということかしら」
「うーん。それとは少し違います。背筋の伸び具合とか目線の向け方とか」
コニーは身振り手振りを加えてなんとか言葉で説明しようとしてくれるが、あまりに曖昧すぎてグレースには伝わらない。要は裁縫師としての感覚なのだろう。
「とにかく、雰囲気です!」
と、乱暴に締めくくった。
するとコニーは初めてここで手を止めた。
「そんなこと、考えてもみませんでした。でもきっと私には無理です」
「どうして?」
グレースが不思議に思って訊ねると、コニーは小さく笑って再び手を動かす。
「王都で仕立屋を開いていた父が亡くなったとき、母がひとりでも店を続けようとしたんですけどダメでした。女店主だということでいろいろ難しかったみたいです」
「そんな……」
理不尽に眉を曇らせたグレースに、コニーはいつもどおりの明るい笑顔を見せた。
「それにたぶん、私には性に合わないと思うんですよね、注文どおりの服を作るのって。その点伯爵家では、好きなように作らせてもらえるので楽しいんです」
フィリスは自分の着るものに無頓着だったため、コニーは存分に腕を振るえたのだと嬉しそうに言う。今回の衣装も、ラルドは彼女の好きなようにしていいと伝えたそうだ。
「材料費を気にせず、自分好みの服を作れるんですよ?こんなに好条件の仕事はほかを探してもありません!」
興奮して熱く語る彼女に、使用人が雇用条件に満足しているならと、グレースは頷くしかなかった。
言われるまま、グレースは腕を上げたり下ろしたり、立ったり座ったりを繰り返してようやく作業は完了する。たいした動作をしたつもりはないのに疲れて、長椅子に座り込んでしまった。
測定結果を詳細に記した紙や道具を片付けていたコニーが、椅子の背にもたれ天井を仰ぐグレースを見て微笑む。
「やっぱり叔母様なんですね。フィリス様とよく似ていらっしゃいます」
「……わたしはあんなに綺麗な娘じゃなかったわ」
月の女神の化身とまで謳われた姪と比べられても、お世辞にも聞こえない。自分が平凡な顔立ちであることは、生まれた時から知っている。
「お顔立ちじゃなくて、姿勢というか立ち姿がですね……っ!?」
自分の失言に気づいたコニーが慌てて口を手で塞ぐ。
彼女に悪気も嘘のないことは重々わかっているので、グレースは都合の悪い部分だけを訊かなかったことにした。
「姿勢?背格好ということかしら」
「うーん。それとは少し違います。背筋の伸び具合とか目線の向け方とか」
コニーは身振り手振りを加えてなんとか言葉で説明しようとしてくれるが、あまりに曖昧すぎてグレースには伝わらない。要は裁縫師としての感覚なのだろう。
「とにかく、雰囲気です!」
と、乱暴に締めくくった。